『できない自分』を責める前に知っておきたい実行機能の話
はじめに:「ダメな自分」は本当に性格の問題?
「また締め切りギリギリになってしまった…」 「会議の予定をすっかり忘れていた…」 「すぐにイライラしてしまう自分が嫌だ…」
周りからは「だらしない」「気が利かない」と思われているかもしれない。自分でも「どうしてこんなに自分はダメなんだろう」と落ち込んでしまう。
でも、ちょっと待ってください。
それは性格の問題ではなく、脳の「実行機能」に負荷がかかっているサインかもしれません。
実行機能とは?脳の「司令塔」の正体
実行機能とは、簡単に言えば脳の司令塔のような能力です。目の前の課題に集中したり、途中で気を散らさずにやり遂げたり、状況に応じて行動を切り替えたりするために必要な、”脳のオペレーティングシステム”のようなものです。
実行機能を構成する3つの要素
1. 情報を「更新」する力
「今やるべきことを頭の中に保持しつつ、必要に応じて中身を入れ替える」能力です。買い物リストを覚えながら、途中で変更があってもリアルタイムで対応できる力のこと。
この力が弱っていると: 予定の変更に対応できない、「あれ、なんでここに来たんだっけ…?」となる、マルチステップのタスクで迷子になる
2. 注意を「切り替える」力
「今までやっていたことから、別の行動や視点にパッと移る」能力です。急な連絡にも対応して、また元の作業に戻れる力のこと。
この力が弱っていると: 急な予定変更にイライラする、失敗を引きずる、オンオフの切り替えができず帰宅後も仕事のことで頭がいっぱい
3. 衝動を「抑制する」力
「やっちゃダメ」とわかっている行動をグッとこらえる力です。短期的な快に流されず、長期的な価値に従える力のこと。
この力が弱っていると: キレやすい、すぐに口出ししてしまう、「やるべきこと」より「やりたいこと」にすぐ流される
なぜ「だらしない人間」に見えてしまうのか
実行機能に負荷がかかると、私たちは一見”だらしない人間”に見えてしまいます。
- 会議の準備はギリギリまで放置して、開始5分前にあわてる
- ToDoをメモしているのに、そのメモを見るのを忘れる
- 「あれやらなきゃ」と思った瞬間に別のメールに気を取られる
こういうタイプは、「いつもギリギリ」「だらしない」と周囲から見られがちです。でも実際は、“脳の処理リソース”が足りていないだけだったりするのです。
それはまるで、メモリの少ないPCに大量のアプリを同時に立ち上げて「もっとサクサク動けよ」と怒っているようなもの。
ここで重要なのは、「IQが高い=実行機能も高い」ではないという点です。資料作成は完璧なのに会議のスケジュールを忘れる人は、認知的な処理能力は高くても、脳の司令塔に負荷がかかっているのかもしれません。
実行機能は「脳の成熟度」で差が出る
実行機能の発達には、個人差がめちゃくちゃ大きいことがわかっています。同じ年齢でも、生まれや育ちによって”段取り力”や”切り替え力”は大きく異なります。
これは「能力差」というより、脳の構造のクセと成熟スピードの違いに近いポイントです。
「性格の問題」と誤解すると何が起きるか
実行機能のクセを性格と勘違いしてしまうと、困った問題が出てきます。
- 「だらしないやつ」→ 実はワーキングメモリの処理容量が少ないだけ
- 「空気読めない」→ 実は認知の切り替えが苦手なだけ
- 「打たれ弱い」→ 実は抑制機能の回復が遅いだけ
こうした誤解があると本人が追い詰められてしまい、「どうせ自分にはできない……」という感覚を生み出します。実際、近年の研究でも「実行機能への過度な期待や批判」は、メンタルヘルスや離職率にも関係していることが指摘されています。
実行機能の視点で「困った行動」を見直す
自分の”ダメなところ”を「性格の問題」として見なさずに、「実行機能のどこで負荷がかかっていそうか?」という視点で観察してみましょう。
例えば:
- やたらと先延ばしする → タスクを細かく分ける、「最初の一歩」だけに集中
- 同じミスを繰り返す → チェックリストの導入、業務の手順書化
- 集中力が続かない → 25分作業+5分休憩、通知オフ、雑音を減らす
- イライラしやすい → 反応の前に「深呼吸1回」ルール、感情ログをつける
このように、”困った行動”の多くは「能力が低い」のではなく「脳の負荷オーバー」で起きていることがわかります。そして、具体的な対策も立てやすくなるのです。
まとめ:自分を責める前に、実行機能の視点を持とう
「あなたの”ダメなところ”は性格の問題ではなく、脳の『実行機能』の負荷オーバーかもしれない」
実行機能は、情報の更新力・注意の切り替え力・衝動の抑制力の3つから成り立ち、人によって発達度合いやクセが大きく異なります。
「性格の問題」として批判するのではなく、「実行機能のどこに負荷がかかっているか?」という視点で見直せば、具体的な対策が立てられます。
「能力が低い」のではなく「脳の処理リソースが足りていない」だけなのです。適切な対策を講じれば、改善できる可能性は十分にあります。
自分を責めるのはもうやめて、実行機能という新しい視点を手に入れましょう。
